午後の訓練が終わった後、ロッカールームに足を運ぼうとすると訓練教官の一人に呼び止められた。

「アズラエル理事が君に話があるそうだ。着替えたらすぐに理事室に行くように。以上だ」

そいつは機械的に伝達事項を告げると何事もなかったかのように去っていった。

呆然とそいつの後ろ姿を見送りながら、俺は釈然としない気持ちでいた。

あいつが俺に直接話があるって?

非常に珍しい事だった。

とは言っても、ここに連れて来られた日の翌日から約一ヶ月の間、あいつと直接話をしたことはない。

今までは、教官の奴らから「アズラエル理事からの伝言だ」とすべて間接的に聞かされていたのだ。

急にどういう風の吹き回しなんだ・・・?

嫌な・・予感がした。

たが、いつまでもそんな風に考えてるわけにもいかないので、再びロッカールームへと足を向けた。

急いで着替えを済ませ、言われた通りに理事室を目指す。

確か理事室はこの施設の最上階の左側、通路の突き当たりに位置しているはずだ。



横長の長方形をした造りのこの施設は四階まである。

一階にはトレーニングルームと医務室。

二階はオペレータールーム。

三階は資料室や図書館、四階には理事室や会議室があるらしい。

俺たちが寝泊りしている宿舎は別にあり、この施設の後ろに位置していて、階ごとに渡り廊下でつながっている。

ほとんど自分の個室からトレーニングルームまでしか行き来しない俺たちには、 施設内に何があるかは大まかにしか知らされていない。

まあ別に興味もないし、俺にとってはどうでもいいことなのだが。



施設の中央にあるエレベーターで最上階まで上ると、左側の通路の一番奥へと歩き出した。

長い通路を黙々と歩き続け、やっとのことでドアの前まで来ると、一つ深呼吸をしてからドアの開閉ボタンに手を掛けた。

ピーっと音がなった後、「どうぞ」とやつの声がしてドアが自動的に開いた。

遠慮がちに中に足を踏み入れると、部屋の正面に張られた大きなガラス窓の前に立っているアズラエルの 後ろ姿と一緒に、窓から見える外の景色が目に入った。

それとほぼ同時に、俺の他に三人の先客がいたことに気がついた。

アズラエルの背後にある、たくさんの書類やパソコンなどが載ったデスクの手前に、 俺と同じような服装をした男が二人並んで佇んでいた。

俺から見て左側にいる奴は、エメラルドグリーンともとれる薄緑色のパーマヘアで、 ひょろっとした体格の男だった。

その右隣にいる奴は、隣の奴より少し背が低く、夕日のような明るいオレンジ色の髪をしていた。

そう言えばこの二人、さっきの訓練で一緒だった奴らだ。

不思議な事に、今日の訓練には俺とこの二人の三人しかいなかった。

こいつらも俺と同じように呼び出されたのか。



そして俺はもう一人の先客に目を向けた。

そいつは女だった。

女は俺たちと違って白い軍服に身を包み、デスクの右隣に立っていた。

透き通った緑色の大きな瞳が印象的だった。

肩より少し長めのベージュの髪が、彼女が少し首を動かすたびにサラサラと動く。

美人な女だと思った。

一見して年は俺とそう変わりはないだろう。

軍にはこんなに若い女も志願しているのか。



俺が部屋の入り口で突っ立っていると、アズラエルがゆっくりとこちらに身体を向けた。

「やっと三人揃いましたね」

やつはデスクの前まで歩み寄ると、俺に目線を映して「君もこちらに来て下さい」と 二人の男の横に並ぶように促した。

大人しくオレンジの髪の奴の隣に立つと、それを待っていたかのようにアズラエルは口を開いた。

「今日君達三人をここに呼んだのは、大切なことをお話したかったからです」

やつはもう一度俺たち三人を順に見やった。

「君達には、今日から正式に地球軍のパイロットになってもらうことになりました」

正式に?どういうことだ?

さもすごいことのように語るやつを尻目に、俺は不審の念を抱かずにはいられなかった。

「前にも話しましたが、現在、地球軍では極秘に新鋭MSを三機開発中なのです。 コーディネイターに奪われた四機のMSより優れた 性能を持ったMSをね。君たちにはそれに乗って戦ってもらいます」

まるで大演説をする偉人のように自信に満ちた口調だ。

「君達三人は選ばれたのです。新しいMSに乗るに相応しい優秀なパイロットとしてね」

最後には両手広げて、いかにも喜べと言うように俺たちに言葉を投げかけた。

そんなやつの思いとは裏腹に、俺は少なからず動揺していた。

俺たち三人が、選ばれた?

と言うことは、はじめから三機のMSしか用意されていなかったいう意味なのか?

自問自答を繰り返すが、答えは一向に思い当たらない。

俺は無意識にやつを盗み見た。

ここに連れて来られる前に、やつは確かに新しいMSのパイロットになって欲しいと言った。

MSに乗ったことがなくても、訓練をするから心配ないと。

それは裏返せば、訓練で適任者を選び出すということだったのか?

―訓練―

俺はハッとした。

思えば、訓練する人間が日に日に減っていった。

いなくなった奴は怪我でもしたんだろうと今まであまり気に掛けなかったが、よく考えればおかしくないか?

俺の記憶では、最初の訓練には20人程いたはずだ。

それなのに約一ヶ月が過ぎた今日の訓練では、俺たち三人しかいなかった。

―君たち三人は選ばれた―

つまり日々の訓練で暗黙のうちに選ばれた奴だけが、次の訓練に出れるということだったのか?

そしてその結果、俺たち三人だけが残った・・・?

じゃあ選ばれなかった奴はどうなったんだ?



「おや、あまり嬉しそうじゃないですね」

アズラエルの声で急に我に返った。

やつは不服そうな顔を俺たちを向けている。

ふと俺は他の二人が気になって、ちらりと二人に目線を向けた。

端にいる奴は少し複雑な表情を浮かべているだけだったが、俺の隣の奴に至っては明らかに驚きを隠せないようだった。

当然と言えば当然だろう。

おそらく俺と同じように、必ずMSのパイロットになれるようなことを聞かされていたはずだ。

「まあ、いいです」

俺たちの反応など結局はどうでもいいのだろう。 やつは気を取り直すように次の言葉を切り出した。

「君たちにはこれから約三ヶ月間、実戦を含んだ本格的な訓練を受けてもらいます。 今までとは比べ物にならないくらい辛い訓練になりますから、覚悟しておいて下さいね」

そう言うと、やつの顔つきは一変して険しいものに変わった。

「な〜に、辛いのは初めだけですよ。じきにすぐ慣れます」

冷ややかな笑みを口元に浮かべながら俺たちを見下ろす表情は、不気味と言うより、悪魔のように見えた。

やつは俺たちを人間として扱っていない。

それは薬漬けにされた時点でもわかっていたことだ。

本格的な訓練・・・今度はどんな苦痛を強いられるのだろうか。

所詮、俺たちはやつのロボットでしかない。



「ああ、君達から何か聞いておきたい事はありますか?」

一応聞いておこうといった感じで、取ってつけたように言葉を振ってきた。

一瞬、さっき思ったこと―選ばれなかった奴らはどうなったのか― を聞こうと思ったが、結局口には出せなかった。

聞いては・・いけないようなことに思われた。



俺たち三人が黙ったまま何も言わないのを確認すると、やつは初めて、右隣にいた女に視線を移した。

「では、最後に君たちに紹介しておきたい人がいます。

「はい」

彼女はやつを見て静かに頷くと、今度は俺たちの方に顔を向けた。

「はじめまして。です。よろしくお願いします」

聞き心地のいい、柔らかな声が部屋中に響き渡る。

さっきまでの重苦しい雰囲気が一気に拭いさられるような気がした。

「これからは僕も色々とやることがあるんで忙しくなります。 何か困った事や必要な物があれば、すべて彼女に聞いて下さい」

やつは慣れ慣れしく彼女の右肩に手を載せた。

「私はたいてオペレータールームにいるんで、何かありましたらいつでも声を掛けて下さいね」

邪気のない笑顔を浮かべる彼女は、やつとは対照的に俺の目に移った。

「それじゃあ、君たちもに自己紹介して下さい。君たちもMSで戦う仲間としてお互いの名前くらいは知って おいた方がいいですしね」

アズラエルは一番左端にいた奴に目線を向けると、「君から」というように目で合図した。



「・・・・・シャニ・アンドラス・・・・・・・・・」

その言葉を受けて、ボソボソと聞き取りにくい声で名前をつぶやいた。

無造作なパーマヘアが邪魔して、俺のいる所からは顔がよく見えないが、 陰湿そうな雰囲気が感じ取れた。

「クロト・ブエル。よろしく」

三人の真ん中にいるオレンジの髪の奴がそれに続いた。

目つきが鋭い奴だが、声から想像すると俺よりは年下だろう。 三人の中で一番幼く見えた。

「オルガ・サブナック。よろしく」

俺も取り合えず言われた通りに簡単に自己紹介をした。

女は俺たちのそっけない自己紹介に真剣に耳を傾けていた。

それぞれが言い終えた後、わずかに微笑んで相槌を返してくる。

彼女に応じる奴はいなかったが、妙な安心感を感じさせた。

「まあ、三人仲良くしろとは言いませんが、 お互いに名前くらいは覚えておくように。では話はそれだけなんで、君たちは部屋に戻っていいですよ」

そう話し終えると、やつはデスク用の黒塗りの肘掛け椅子にゆったりと腰を下ろした。

それを見届けた俺は、足早にドアへと歩き出した。

残りの二人も俺に続き、ゾロゾロと部屋を後にした。



廊下に出ると、冷たい空気が俺の頬を撫でた。

やつから逃れた事で緊張感が解けたのか、急に疲労感が襲ってきた。

俺の後ろを歩く二人もそうらしい。

ちらっと視界に入れると、心なしか表情が緩んでいるように見えた。

お互いの名前を覚えたところで、俺はこいつらやあの女と馴れ合うつもりはない。

今までだってそうだったのだ。

きっとこれからも関わる事はない。



そう思いながら、俺は真っ先に宿舎へと戻っていった。




































第3話です。
前回からかなり日が空いてしまってスイマセンでした・・・汗。

やっとヒロイン登場!と言いたいところですが、まだちょこっとだけです(笑)
次回こそ、バリバリ動かします!!

今回は多サイト様の夢小説に触発されて、形容表現を多く取り入れ、 かつ心情部分を細かく描写するよう心掛けてみましたが・・・撃沈です。
私の拙い文章力では、表現しきれませんでした。てか、考えが浅はかだった・・・・・。 まだまだですね・・・。
こんなことなら、昔にもっと本を読んでおくべきだった(涙)

話の中に出てくる理事室と右下の画像はかなり違いますが、気にしないで下さい(←え!?無理だって?) いや、その・・ピッタリの画像が見つけられなかったんです・・・。

次回は更新が遅くならないように頑張ります(←いつもそう言ってますが・・)

最後になりましたが、読んで下さった方、本当にありがとうございました!









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