正式に地球軍の専属パイロットになってから一週間が過ぎようとしていた。

やつ―アズラエル―の言っていた通り、訓練は実戦を含めた本格的なものに切り替わった。

筋力トレーニングが実戦トレーニングに変わり、 施設郊外にある軍事基地周辺の広い荒野でMS戦を行うのだ。

俺たちが乗る予定の新しいMSが未完成な為、試験段階のストライクダガーと呼ばれるMSに乗って、 コンピューターで遠隔操作されたMSと戦闘する。



訓練の変更に伴い、薬の作用も以前より強くなった。

研究員の奴らの話によると、γ−グリフェプタンの量を二倍にしたらしい。

当然薬が欠乏した時の副作用も同様に強くなり、今まで以上の苦痛を味わうことになる。

さらに実戦トレーニングでは、いち早くMSの操縦に慣れさせる為に、 指定されたスコア以上の結果を出せない場合はペナルティーが科せられた。

これは、訓練の後に薬の効果が切れても、ある一定の時間は新たに服用する薬を与えられないというものだ。

要するに、この間は薬切れによる激しい苦痛に見舞われることになる。



俺たちにとっては、地獄のような時間だ。

薬切れで苦しい思いをしたくないのなら、結果を出せというわけだ。

俗に言うショック療法である。









この一週間の間、俺も三回ほどこの洗礼を受けた。

その時の事は、思い出しただけでも吐き気がする。

物にしがみつくことで何とか苦痛に耐えながらも、意識を保つことだけで精一杯の状態。

気がおかしくなりそうだった。

そんな俺を無表情に眺めている研究員の奴らを、何度殺してやりたいと思っただろうか。





俺はこんな思いはしたくない。

毎日必死に訓練に取り組んでいるつもりだ。

だが皮肉な事にノルマは日ごとに少しずつ上がっていく。

常に今以上の結果を求められるのだ。



初めは慣れない訓練に身体が全くついていかず、訓練後は部屋に倒れこむような形で寝る毎日だった。

ここ数日、やっと今の訓練が身体になじんできたというところだ。





























午前の訓練が終わった後、という女に会うためにオペレータールームに向かっていた。

俺は訓練以外の時間はほとんど本を読むことに費やしている。

特に読書が好きだと言うわけではないが、そうしているとなぜか心が落ち着くのだ。

基本的にジュブ小説の類しか読まない。

このジャンルの小説は文体が明瞭で、難解な表現が少なく読みやすいからだ。

好きな作家やシリーズがあるわけではない。

俺にとってストーリーはどうでもよかった。

読みやすいかそうでないかの問題なのだ。

文字を追うのに苦痛でなければどんな本でも構わなかった。



この施設には図書館もあるが、軍事関係の書物がほとんどで小説などはあまり置いていない。

それで新しい本を取り寄せてもらおうと、あの女に頼みに行くのだ。

アズラエルは欲しい物があれば何でも取り寄せると言った。

俺は物欲はないが、せっかくの機会は利用しようと思う。

今まではやつに直接頼まなければならなかったのでそんな気は全く起こらなかった。

出来れば顔を合わせたくなかったし、会えば色々嫌味を言われて気分が苛つく。

あの女なら、やつと違ってすんなり頼まれてくれるだろう。





開閉ボタンを押してオペレータールームに入ると、部屋にはたくさんのデスクが並べられていた。

二つのデスクが向かい合わせになった状態で縦に三列並べられている。

一つ一つのデスクにはパソコンが置いてあり、ほぼ全員がパソコンのディスプレイに向かって何かを打ち込んでいた。

室内にはキーボードを叩く音とパソコンの電子音だけが飛び交っている。

人の話し声は全くしない。

異様な光景である。

俺は右端の小さな通路を奥へと進んだ。

一度見ただけでうろ覚えであるが、を探しにかかる。

すると、一番奥の真ん中の列、右側のデスクに座っている女が目に入った。

肩より少し長いベージュ色の髪。

あいつがだ。

俺はのデスクに近寄って「おい」と声を掛けた。

彼女はパソコンのディスプレイに目を向けたまま、キーボードに打ち込む手を止めずに「何?」と答えたが、

次の瞬間―――

「・・・え?」

声の主に驚いたのか、彼女は急に作業を中断してこちらを振り向いた。

俺を見ると、彼女は緑色の大きな瞳をさらに大きく見開いて絶句した。

数秒後、我に返ったのか表情を緩めて口を開いた。

「あ・・・ごめんなさい。びっくりしちゃって・・。どうかしましたか?」

俺は不躾に取り寄せて欲しい本の題名を書いたメモを渡した。

「これを購入して欲しいとやつに言っておいてくれ」

それだけ言って、俺はメモに目を通している彼女を残して即座に立ち去ろうとした。

「あっ、待って!サブナック少尉!」

急に呼び止められて、俺は思わず立ち止まった。

彼女は椅子から立ち上がって俺の方に駆け寄ると、

「今日の午後、訓練が終わった後時間あるかな?」

と尋ねてきた。

何でそんなこと聞くんだという顔をすると、彼女は笑みを浮かべた。

「私今日本屋に行くつもりなんだけど、よかったらサブナック少尉も一緒に行かない?」

全く予期せぬ問いかけに、俺は呆気に取られてしまった。

俺が黙っていると、彼女は言葉を続けた。

「頼まれた本を私が買ってくるよりも、せっかくの機会だし自分の目で確かめてから購入する方がいいと思って。 どうかな?」

彼女は相変わらず柔らかい笑みを俺に向けている。

なぜか彼女の笑顔はホッとするというか安心する。

本屋・・・か。

確かにいい機会だし行ってみたいとは思う。

けど、俺が施設から出ることをやつ―アズラエル―が許可するだろうか?

「・・アズラエルの奴が許可しないだろ」

吐き捨てるように俺が言うと、

「大丈夫よ。3時間くらい外に出るだけだし。 私が頼んでみるから」

この間のアズラエルのに対する態度からして、彼女はやつのお気に入りかもしれない。

の言葉を聞いて、ふとそんな考えが俺の頭に浮かんだ。

そうであれば、多少の融通は利かせてくれるだろう。

無理ならばそれはそれで構わない。

だいたい外に出たからといって今さら脱走するつもりはないし、そうした所で行くあてもないのだ。

どうせ薬がなければ効果がなくなった時点で死ぬ。

俺はそこまでわからない程バカじゃない。

「わかった」

俺が承諾すると、彼女は満面の笑みを浮かべた。

「午後の訓練後、もう一度オペレータールームの前に来てくれる?」

「ああ」

本当によく笑う女だなと思った。

癖なのだろうか。

でもこの彼女の笑みは、自然と周りを癒すような気がした。

「それじゃあ、後でね」

彼女は再び席に戻っていった。

オペレータルームを後にした俺は、午後の訓練の前に何か食べておこうと思い食堂へと足を運んだ。





















訓練を終えて、俺は約束した通りオペレータルームの前で待っていた。

午後は実戦トレーニングだったから多少の疲れはあるが、今日はペナルティーを受けることなく ノルマをクリア出来た。

出かけるのにそう支障はない。

久しぶりに外に出られる機会を無駄にしたくはないという思いもあった。

しばらくして右側の通路から聞き覚えのある声が聞こえた。

「ごめんね。着替えてたら遅くなっちゃって・・」

彼女は軍服ではなく私服だった。

Tシャツに七分丈のシャツを羽織って、下はジーンズという出立ちだ。

「訓練お疲れ様。疲れてない?大丈夫?」

「ああ」

少し心配そうに問いかけるに俺はそっけなく応じた。

「そっか」

安堵して彼女は俺の服装を見ると、驚いたように言った。

「サブナック少尉・・・もしかして軍服で行くつもりなの?」

「ああ」

俺が何のためらいもなく返事をすると、は少し困ったような顔をした。

「それはちょっとマズイなあ・・。私服は持ってないの?」

さっきと同じように頷くと、彼女は何かを考えるようにそのまま黙り込んだ。



施設内では軍服の着用が義務付けられている。

常に施設にいる俺には私服など必要ない。

「そっか、わかった。突然だけど、先にサブナック少尉の服を買いに行こう。私用時に軍服で街を 歩くのは良くないんだ。いいかな?」

なぜ軍服で外を歩くのが良くないかはわからないが、彼女に従っておくのが妥当だろう。

俺と違って彼女は正規の軍人だ。

当然軍の事情についてよく知っているはずである。

何かあるのだろう。

「ああ、任せる」

「それじゃあ、まずメンズショップに行くね」

先に立って歩き出した彼女に俺は黙ってついて行った。





































第4話です。やっとヒロインとオルガが絡んでくれました(笑) これから夢小説らしくなっていくと思います。

続きは今月中にはupするつもりです。まだ今後の展開を大まかにしか考えてないんで(←おい!)遅くなる可能性大ですが、そうならないように 努力はするつもり・・です。いや、頑張ります!

それでは最後になりましたが、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!









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