あの日―先日の試験成績発表―以来、イザークは毎日のように私に勝負を挑んできた。
二コル曰く、「現時点ではアスランより先にを負かす方が得策だと思ったんでしょうね」
という事らしい。
イザークと同室のディアッカは、毎日部屋のものを壊されてたまらないと言って頭を抱えている。
そんなディアッカを気の毒に思うラスティ。
そしてアスランはというと、最近イザークに突っかかられないせいか、生き生きとしてるように見えた。
アカデミーの授業は基本的に午前中で終わる。
午後は選択科目や自主学習にあてられ、特別に訓練がない限りは生徒は自由な時間を過ごす事が出来る。
私が自習してる時や自分の部屋にいる時は必ずと言っていい程イザークが勝負を挑みに怒鳴り込んできた。
昨日の日曜日も二コルが、
「今日は家に帰るので、お暇でしたら一緒に来ませんか?僕ピアノが得意なんですけど、よろしければ披露しますよ」
と誘ってくれたのに、その日も毎度のようにイザークが勝負を持ちかけに部屋にやってきた。
二コルと出かけるからと断ると、
「なにぃ・・・!? 俺がわざわざ勝負を挑んでるのに、それを断るだとぉ!! ついに怖気づいたか、腰抜けがぁ!!!」
とわめき散らす始末。
見かねた二コルが
「今日はイザークに付き合ったほうがいいんじゃないですか。
僕の方はまた誘いますから、今度でいいですよ」
と言ってくれた。
結局、朝から夕食の時間までチェスに付き合わされる事となった。
今までにもポーカーやダーツ、ビリヤードに射撃と思い出すのも面倒になる程のバラエティイに富んだ勝負を繰り広げてきた。
正直言って、もううんざりだった。
まあすべての勝負に勝ってしまうのが、イザークの闘志にさらに火を点けているのだが・・・。
私は負けず嫌いである。
相手が男でもそれは変わらない。
だからどんなにうんざりしても、イザークにわざと負けるなんて事はできなかった。
そんな日々が続いて18日目の事。
午前の授業が終わった後、私は部屋で横になっていた。
普段授業のない日の午後は自主学習やシュミレーションをしているのだが、今日はそういう訳には
いかなかった。
今日は女の子の日―つまり生理―なのだ。
いくら男装していても、自分が女だと認めざるを得ない現象。
しかも運の悪い事に、私は生理痛がかなり重いのだ。
最初の3日間は激しい頭痛と腹痛に襲われる。事実、痛みのあまり起き上がれなかったり、めまいや貧血を
起こす事もざらにある。
授業などで必ず出席しなければならない時は薬を飲むのだが、私の場合、強い鎮静剤を使用してるため一日一回しか
服用できない。
効き目は6時間の間だけ。
そんなわけで、効き目がなくなると横になっているしかないのである。
しかし――そういう日に限って、イザークがまた性懲りもなく勝負を挑んできた。
勢いよく部屋のドアが開けられたかと思うと、イザークが大声を出す。
「!貴様、こんな所にいたのか。真っ昼間から昼寝か?いい度胸だな」
ノックぐらいしろよと思ったが、今の私にそんなことを言う気力はなかった。
「来い!今日はフェンシングで勝負だ!!」
何も言わない私に、イザークは勝手に話を進める。
私は話すのも億劫だった。
だが、なんとか気力を振り絞ってイザークに言った。
「悪い・・・イザーク。今日は、調子が悪いんだ。また今度にしてくれないか・・・・・」
苦痛に満ちた表情の私の額にうっすら汗が浮いていたのに気がついたのか、イザークは一瞬ばつが悪そうな顔をしたが、
「フンッ、調子に乗っているからそういう事になるんだ。」
とだけ言って、大人しく部屋を出てった。
それからというもの、勝負を持ちかけてくるイザークに次の日もその次の日も同じ理由で断ったので、ついにしびれを切らしたのか彼はキレた。
「!貴様ァ・・・この俺をおちょくってるのか!? いつまでもそんな理由が通用すると思うなよ!!」
部屋に来るなり、寮全体に響き渡りそうな程の大声で怒鳴り散らす。
耳がキンキンした。
こんな事がずっと続くなら、もういっそのことイザークにわざと負けて降参する方がいいかもしれない・・・と
痛む頭を抱えながら私は思った。
「フンッ・・貴様、この俺に負けるのが怖いんだろう。ちょっと情報処理が得意で、成績が俺より上だったからといって
調子に乗るなよ!」
一度も私に勝ったことがないのに、どこからそんな余裕が出てくるのだろうか。
人をバカにするのにも限度がある。
文句は勝ってから言って欲しい。
「なぜさっきから黙っている!勝負する前から降参か?所詮、貴様は負け犬だな!!」
イザークは一方的にまくしたてる。
さすがの私もここまで罵倒されて頭にきた。
「わかったよ!勝負すればいいんだろ!! 俺はフェンシングは得意なんだ。またいつものように負けて文句を言うなよ!!」
そう言って、まだだるさが残る身体を起こした。
イザークの横を通り抜けて、挌技場に向かおうと部屋を出る。
「なんだと貴様ァ!!! 調子に乗るなよ!その言葉、後で必ず後悔させてやるからな!!!」
背中でイザークの声を受けながら、私は黙々と先に進んだ。
勢いでフェンシングの勝負をする事になったが、正直体調は万全じゃない。
生理も4日目ということで激痛こそはないものの、多少の頭痛と身体のだるさは否めない。
だが言った手前、ここで負けるわけにはいかない。
私は幼少から父の教えでフェンシングを習っていた。
2年に一度プラント全土で盛大に行われるフェンシング大会で4回優勝した事がある。
フェンシングの腕には相当自信があった。
こんな事はさっさと終わらせて、当分は勝負を挑むなんて気にならないようにしてやる。
生理中は苛つきやすい事もあって、私はかなり気が立っていた。
用具室でユニフォーム一式と剣をかりて、イザークとは別の更衣室で着替えた。
剣とマスクを手に誰もいない格技場に入り、イザークと向き合った私は、勝負の前に言っておきたいことが
あると言って口を開いた。
「この試合で俺が勝ったら、二度と勝負を挑まないと約束してくれ」
「なにぃ・・?」
「自分が勝つつもりでいるなら、別に気にする事じゃないだろ」
私はあからさまに皮肉を込めて言ってやった。
「フン、いいだろう」
イザークとは構えの姿勢を取り始めた。
ここではフレール用の剣を使用している。
フェンシングにはフレール・エぺ・サーブルと3つの種目があり、それぞれの種目によって剣の種類やルールが違う。
フレールは他の2種目の剣と比べて軽いので操作しやすく、初心者はこの種目から始める場合が多い。
種目別に攻撃の有効範囲も違い、
フレールの有効範囲は頭や首、手足を除く胴体のみ。
基本ルールは、相手の身体の有効範囲を先に突いた方が勝ちという至ってシンプルなルールで
あるが、フレールには攻撃権というルームもあって、自分が攻撃したら、
今度は相手が攻撃する権利を持つという仕組みになっている。
つまり、連続攻撃で相手を突いたとしても、攻撃権は相手にあるので勝った事にはならない。
フェンシングの攻撃権はバレーボールのサーブ権と似た様なものだ。
二人は少しの間、お互いに相手の隙を探り合っていた。
先に仕掛けたのはだった。
イザークが攻撃に入ろうとしたほんの一瞬の隙を見逃さなかった。
はイザークの左脇を狙って鋭く突いた。
イザークはすんでのところで逃れ、の右胸辺りを突きにかかる。
それをすばやく剣でかわし、隙だらけになっていたイザークの左肩を突いた。
しかし、当たらない。
これはイザークが上手くよけているからではない。
が自分からほんの少しずれた位置を突いているのだ。
突こうとして、すばやく突きの構えに移ろうとすると、その動作に合わせて頭がズキンと痛む。
その痛みで手元がぶれて、突く場所が少しだけずれてしまうのだ。
身体の端のギリギリのところ―余程の腕の持ち主でない限りそこを突くのは難しく、相手にとっては一番守りにくい場所―
ばかりを狙うにとって、そのずれはイザークがかわしたような形になってしまう。
の体調が万全なら、最初の一突きで勝負がついていたであろう。
この頭の痛みさえなければとは苛立ち始めた。
突くたびに痛みが大きくなっていくような気がする。
その上身体がだるい事もあって、だんだん動きが鈍くなっていった。
イザークもフェンシングの腕前は結構なものである。
こうなってくると、イザークが少し有利になり始めた。
少し動きが鈍くなったに気がついたイザークは、持久戦に持ち込もうとした。
すぐに防御体勢に入れるような突き方しかしてこない。
の突きはどんどん鋭さを失くしていった。
突くたびに大きくなっていた痛みが閾値に達したのか、今度はの頭は継続的な痛みに襲われた。
一気に額に汗が浮いてきたかと思うと、気分が悪くなると同時にめまいがした。
突然、視界が歪んだ。
の動きが止まる。
イザークはここぞとばかりに突きにかかろうと構えた時―――
の剣が床に落ちた。
直後、自身も床に崩れ落ちた。
最初、イザークは何が起こったのかすぐには理解できなかった。
しばらくして状況を把握すると、マスクをはずしてすぐにに駆け寄った。
「おいっ、!!!」
のマスクを取ると、顔面蒼白で、額にものすごい量の汗をかいていた。
3日前、イザークがに勝負を断られた時と同じ状態だった。
こいつは本当に調子が悪かったのか・・・
イザークはチッと舌打ちした。
とりあえずを着替えさせてから医務室に連れて行こうと思い、
イザークはが使った更衣室に運ぼうとして、の腕を自分の肩に回して身体を
支えながら立ち上がった。
あまりの軽さにイザークは驚いた。
意識のないは、イザークの肩に全体重をかけているはずだ。
確かに男にしては二コルのように華奢な身体つきだが、それにしても軽すぎる。
そんな事を思ったイザークだが、今は一刻も早くを医務室に連れて行くことの方が先だと思い直し、
を支えながら更衣室に向かった。
中に入ると、イザークは部屋の真ん中にある長いすにを横たわらせた。
の使っていたロッカーを探し当て、制服を取り出すとユニフォームを脱がし始めた。
手からグローブをはずし、プロテクターとユニフォームの上着を脱がせると黒いチョッキが表れた。
シャツにしては少し分厚い。
触ってみると、シャツの中にパネルのようなものが入っているようだ。
「なんだこれは?防刃チョッキか・・・?俺の突きはプロテクターだけでは危ないとでも思ったのか
。フン、腰抜けめ」
イザークは悪態をつきながら、チョッキも脱がしていく。
すると、胸の辺りがさらしでグルグル巻きにされていた。それもかなりきつめに。
「怪我でもしてるのか・・・・」
とつぶやいた後、イザークは絶句した。
よく見ると、胸の辺りが少し膨らんでいることに気が付いたのだ。
どういうことなんだ・・・?
は全くと言っていい程太ってもないのに、胸の辺りにだけ脂肪があるなんて事があるのか?
実は上半身デブで、さらしできつくしめて痩せた体系を保っているのか?
そんなバカな事があるはずがない。
例えそうだったとしても、なぜ胸の辺りだけなんだ!?
イザークは真っ先に頭の中に浮かんだ考えを否定しようと、必死に他の理由を考えてみた。
しかし―――もはや答えは一つしか考えられない。
胸の辺りだけ膨らんでいる。
それはつまり女だという事だ。
極度の女嫌いであるイザークでも、それは理解できる。
考えてみれば、思い当たる事はたくさんあった。
と初めて会った日、食堂の椅子に足を引っ掛けて倒れそうになったの腕をディアッカが掴んだ時に
「きゃっ!」と叫んだ事や、
二コルも言っていたが、極度に着替えを見られるのを拒む事。
さっきを運ぶ時にも思った、男にしては軽すぎる体重。
他にも色々あるが、が女であればすべて合点が行く。
イザークはなんとかして確かめたいと思った。
さらしはかなりきつく巻かれている。
ということは、ある程度のところまでほどいていけば、さらしが緩んで元の状態に戻るはずだ。
だが―――――――
イザークは悩んだ。
そんなことが出来きるはずがない。
まるで俺が変なことをしようとしてるみたいじゃないか。
俺は断じてディアッカのようにやらしい気持ちなどない。
女に特別な興味などない。
が女かどうか確かめたいだけだ。
そうだ。
俺にはやましい気持ちなんて全くない。
さらしがきつそうだと思ったから解いてやったという事にしておけばいい。
が男だったら何の問題もないじゃないか。
たとえ女だったとしてもが勝手に男装してたんだ、咎められるような事は何も無い。
俺は悪くないぞ。
色々と考えをめぐらせて、勝手にそう結論付けたイザークは、のさらしをほどこうと
さらしの先っぽの部分を探し始めた。
見つけるとイザークは一瞬ためらったが、なんとでもなれと思い直し、ゆっくりとさらしをほどいていく。
すると、5回ほどいた所で急にさらしがゆるんだ。
次の瞬間、イザークは固まってしまった。
の胸の辺りが、さっきより膨らんでいたのだ。
どれくらいの間そうしていただろうか。
窓の外からはオレンジ色の光が差し込んでいた。
は女だ。
イザークはこの事実を受け入れるまで随分時間がかかった。
頭ではわかっていても、それを認めたくない自分がいる。
俺は女に負けたのか?
この事実が、を女だと認めたくない一番の原因でもあった。
イザークのプライドは見事に打ち砕かれてしまったのだ。
確かにシュミレーションだけはいつもより上だった。
でも、それ以外はどうだ?
今のフェンシングの試合だって、
が体調を崩していなければすぐにやられていただろう。
「くそぉっ!!」
イザークはやりきれない思いで一杯になった。
その時、窓の外から学生達の声が聞こえてきた。
イザークは我に返った。
こんな所を見られたらまずいことになる。
が女だとわかった以上、医務室に連れて行くわけにはいかないだろう。
イザークは、とりあえず部屋に戻ろうと思った。
ほどいたのさらしを適当に巻きなおし、黒いチョッキを着せてから制服に着替えさせた。
用具は使用後すぐに返さないといけない事になっている。
ユニフォームのズボンを脱がせるのには、かなり抵抗があった。
だが、おそらく軍で支給された青色のショートパンツを
着用しているだろうと思い、意を決して脱がせると予想通りだった。
それにホッと安堵しながらも
大量の冷汗をかきながら、なんとかイザークはを着替えさせた。
そしてイザーク自身も自分が使用した更衣室に行き、急いで着替えを済ませる。
用具を返してから、を
先ほどと同じように肩で支えて自分の部屋に連れて行った。
部屋に戻ると誰もいなかった。
幸い同室のディアッカはまだ帰ってないようだ。
イザークはディアッカのベッドにを寝かせた。
さて、これからどうするか・・・
イザークは考えた。
このまま黙って何も見なかったことにするか。
おそらくそういう訳にはいかないだろう。
は俺がを着替えさせた時に正体がばれたのではないかと疑いを持つはずだ。
俺にしたって、このまま何事もなかったかのように普通に過ごす事はできないだろう。
俺にはがなぜ男装しているのかを聞く権利がある。
そうでなければ、納得がいかない。
がいつ目を覚ますかはわからない。
今日はこのまま俺の部屋で寝かせておくしかないな。
ディアッカには二コルの部屋に泊まってもらうか。
後は、
それをどうやってディアッカと二コルに言い含めるかだな。
イザークは部屋を出ると、ドアの前でディアッカが帰ってくるのを待ちながら
考えをめぐらせた。
第4話です。ついに(そうは言ってもまだ4話ですケド・・・汗) イザークにヒロインの秘密がバレてしまいました。
ヒロインはイザークに本当の事を打ち明けるのでしょうか・・・?やっと夢小説らしくなってきた感じです♪
ヒロイン名とヒロインの男装名とがごっちゃになってわかりにくい部分があると思います。
拙い文章力ではこれが精一杯でした。スイマセン・・・・・
フェンシングについては日本フェンシング研究会・
fenCing webの2つのサイト様を参考にさせていただきました。
私はフェンシングに種類があるなんて全く知りませんでしたよ(^^; ただ剣で突けばいいだけだと思ってたんで(←おいおい・・)
いい勉強になりました(笑) 興味のある方は覗いてみて下さいね。
それでは最後になりましたが、読んで下さって本当にありがとうございました!